マーケターはリモートよりも出社するべき!
リモートワークが当たり前になった時代に、あえて問う
コロナ禍を経て、リモートワークは多くの企業で「当たり前」の選択肢になりました。エンジニアやデザイナー、ライターなど、個人で完結する業務が多い職種では、リモートワークによる生産性向上が報告されています。
しかし、マーケターにとってリモートワークは本当に最適な働き方なのでしょうか。私は、マーケターこそ「出社」することで得られる価値が大きいと考えています。
もちろん、リモートワークにも多くのメリットがあります。通勤時間の削減、集中作業の効率化、ワークライフバランスの向上など、否定できない利点は確かに存在します。
それでも、マーケティングという仕事の本質を考えたとき、オフィスという「場」が持つ価値は、依然として代替不可能な要素を含んでいるのです。

マーケティングは「人」と「コンテキスト」の仕事
マーケティングの本質は、人の心を動かし、行動を変えることです。そのためには、データや数字だけでなく、人間の感情、文化、トレンド、空気感といった「言語化しにくい情報」を捉える必要があります。
この「言語化しにくい情報」は、Slackのテキストメッセージや、Zoomの画面越しでは伝わりにくいものです。むしろ、オフィスでの何気ない会話、廊下での立ち話、ランチタイムの雑談の中にこそ、重要なインサイトが潜んでいます。
出社することで得られる5つのマーケティング価値
1. 偶発的な情報との出会い(セレンディピティ)
オフィスには、予期しない情報や発見が溢れています。
営業チームが顧客から聞いた生の声、カスタマーサポートが受けた問い合わせの内容、他部署が進めているプロジェクトの話――こうした情報は、会議の議題には上がらないけれど、マーケティング戦略を考える上で重要なヒントになることがあります。
具体例:あるBtoB企業のマーケターが、オフィスでたまたま営業担当者と雑談した際、「最近、競合のA社が製品の価格を大幅に下げている」という情報を入手。すぐに競合分析を行い、自社の差別化ポイントを強調するキャンペーンを展開し、商談獲得数が30%増加した。
リモートワークでは、こうした偶発的な情報交換の機会が激減します。Slackで「雑談チャンネル」を作っても、本当に重要な情報は「わざわざ投稿するほどではない」という理由で共有されないことが多いのです。
2. 非言語コミュニケーションの重要性
マーケターは、チーム内外の多様なステークホルダーと協働します。経営陣、営業、開発、カスタマーサポート、外部パートナー――それぞれの立場や考えを理解し、調整し、巻き込んでいく必要があります。
この「巻き込み」において、非言語コミュニケーションが果たす役割は極めて大きいです。
- 会議での表情や視線の動き
- 提案に対する反応の微妙なニュアンス
- 誰と誰が仲が良いのか、誰が意思決定に影響力を持つのか
- 組織内の「暗黙のルール」や「政治的な力学」
こうした情報は、Zoomの画面では伝わりません。しかし、マーケティング施策を社内で承認してもらい、実行に移すためには、こうした「空気を読む力」が不可欠なのです。
3. 迅速な意思決定とフィードバックループ
マーケティングは、スピードが命です。市場のトレンドは日々変わり、競合の動きも激しく、タイミングを逃せば機会損失につながります。
オフィスにいれば、ちょっとした確認や相談を即座に行えます。
- 「このクリエイティブ、どう思う?」と隣の席のデザイナーに5秒で聞ける
- 「この数字、ちょっと見てもらえる?」と上司のデスクに歩いていける
- 「お客さんの反応、どう?」と営業チームに直接聞ける
リモートだと、これらが全て「Slackで依頼→返信待ち→追加質問→また待ち」というサイクルになり、意思決定が遅延します。小さな遅延の積み重ねが、マーケティングの機動力を著しく低下させるのです。
4. チームの一体感とモチベーション
マーケティングは、個人プレーではなくチームプレーです。キャンペーンの成功には、様々な役割の人たちが協力し、同じゴールに向かって走る必要があります。
オフィスで一緒に働くことで生まれる一体感、達成感の共有、互いへの信頼感は、チームのパフォーマンスを大きく左右します。
リモートでも定期的なオンラインミーティングで情報共有はできますが、「一緒に戦っている感覚」は、やはり物理的に同じ空間にいることで強化されます。
5. 市場や顧客への感度を保つ
マーケターは、常に市場の動きや顧客のニーズにアンテナを張っている必要があります。
オフィスに出社することで、通勤中に街の様子を観察したり、ランチに出かけて店舗の動向をチェックしたり、同僚と会話する中で新しい視点を得たりできます。
自宅にこもってパソコンに向かっているだけでは、感性が鈍り、市場から乖離したマーケティングになりがちです。特にBtoC企業のマーケターにとって、「外の世界」との接点を保つことは極めて重要です。
リモートワークのデメリット:マーケター特有の課題
情報の非対称性が拡大する
リモートワークでは、「誰が何を知っているか」が見えにくくなります。特に新入社員や若手マーケターは、組織内のネットワークが弱いため、重要な情報にアクセスできず、孤立しやすくなります。
クリエイティブなブレストが難しい
マーケティングには、チームでアイデアを出し合い、磨き上げていくプロセスが欠かせません。オンラインのブレストツールも発達していますが、ホワイトボードを囲んで付箋を貼りながら議論する体験には及びません。
「肌感覚」が失われる
マーケターには、データには表れない「何となくこの施策はいける気がする」「このメッセージは刺さらなそう」という直感が求められます。この直感は、多様な情報に触れ、人と対話する中で磨かれるものであり、リモートでは養いにくいのです。
それでもリモートワークが有効なケース
もちろん、全てのマーケティング業務において出社が必須というわけではありません。以下のような業務は、リモートでも高い生産性を発揮できます。
- データ分析:GAやBIツールを使った定量分析は、集中できる自宅の方が効率的
- コンテンツ制作:ブログ記事やSNS投稿の執筆は、一人で集中して取り組める
- 広告運用:日々の入札調整や効果測定は、場所を問わず実施可能
- 戦略立案:じっくり考える時間が必要な戦略ドキュメントの作成
つまり、「作業フェーズ」はリモートでも問題ないが、「コミュニケーションフェーズ」「企画・発想フェーズ」「意思決定フェーズ」では出社の価値が高い、と言えます。
理想的なハイブリッドモデルとは
では、マーケターにとって理想的な働き方とは何でしょうか。私は、「戦略的なハイブリッドモデル」が最適解だと考えています。
週3〜4日出社、週1〜2日リモートの組み合わせ
コミュニケーションや企画が必要な日は出社し、集中作業が必要な日はリモートにする。この柔軟性が、マーケターのパフォーマンスを最大化します。
チーム全員が出社する「コアデー」を設定
週に1〜2日、マーケティングチーム全員が必ず出社する日を決めることで、重要な議論やブレスト、チームビルディングを効果的に行えます。
目的に応じた使い分け
- 出社すべき時:キャンペーン企画会議、ステークホルダーとの調整、新入社員のオンボーディング、四半期の振り返り、クリエイティブレビュー
- リモート可能な時:データ分析、レポート作成、メールマーケティングの配信設定、広告運用の調整、ブログ記事執筆
出社を価値あるものにするための工夫
単に「出社しろ」と言うだけでは、社員の反発を招きます。出社に価値を感じてもらうためには、オフィス環境や働き方の工夫が必要です。
1. コラボレーションを促進するオフィス設計
固定席ではなくフリーアドレス制にし、偶発的なコミュニケーションが生まれやすい空間を作る。カフェスペースやラウンジなど、気軽に会話できる場所を用意する。
2. 「無駄な会議」を削減する
出社しても会議ばかりでは意味がありません。会議は本当に必要なものだけに絞り、出社した時間を有意義なコミュニケーションや企画に使えるようにします。
3. オフィスならではのイベントを企画
ランチ会、勉強会、ブレストセッション、チームビルディング活動など、オフィスにいるからこそできる価値ある活動を定期的に実施します。
4. 出社とリモートの選択権を与える
一律の強制ではなく、個々の業務内容や状況に応じて柔軟に選べるようにすることで、社員の自律性を尊重しながら出社のメリットを享受できます。
若手マーケターこそ出社すべき理由
特に強調したいのは、若手マーケターやキャリアの浅いマーケターほど、出社から得られる学びが大きいということです。
- 先輩の仕事の進め方を間近で見られる:どんなツールを使っているか、どう考えているか、どうコミュニケーションしているか
- 気軽に質問できる環境:Slackで質問するのはハードルが高いが、隣にいればすぐ聞ける
- 社内ネットワークを構築できる:他部署の人との接点が、将来のキャリアに大きく影響する
- 組織文化を体感できる:会社の価値観や暗黙のルールは、オフィスで働く中で自然に身につく
リモートワークは、既にスキルとネットワークを持つベテランには有効ですが、これから成長しようとする若手にとっては、成長機会の損失につながりかねません。
結論:リモートとオフィス、どちらか一方ではなく「最適な組み合わせ」を
「マーケターは出社すべき」という主張は、決してリモートワークを全否定するものではありません。
重要なのは、マーケティングという仕事の特性を理解した上で、出社とリモートのそれぞれの強みを活かした働き方を設計することです。
マーケティングは、人間の心理を理解し、組織を動かし、市場を読み、チームで成果を出す仕事です。そうした仕事の本質を考えたとき、オフィスという「場」が持つ価値は、依然として大きいのです。
データ分析やコンテンツ制作などの「作業」はリモートで効率的に行い、企画立案やステークホルダーとの調整、チームでのブレストなど「コミュニケーションが必要な業務」はオフィスで行う――このハイブリッドモデルこそが、現代のマーケターにとって最も生産的な働き方ではないでしょうか。
リモートワークの便利さに甘んじることなく、オフィスに出社することで得られる価値を再認識し、戦略的に働き方を選択していく。そうした姿勢が、これからのマーケターには求められているのです。
